学生時代は工業・工芸デザインを勉強し、工芸デザイナーを目指していた。テーブルウエアや食器などの人が手に持って使う小物や道具のデザインがしたくてね。
道具としての機能的な部分だけではなく、握った感じ、口につけたときの感触、質感、重さが心地いいとか。置いてある時の存在感や、周りのモノ達と一緒になって作り出す空気感とか。そういったモノのデザインがしたかった。
学校の帰りや休日には、雑貨店や、食器にこだわったカフェやレストランを巡って、雑貨や食器による空間演出を体験するのが好きだった。今でもそれは変わらない。
しかし、ある時気づいたんだよね。テーブルや椅子、食器棚など家具も一緒にデザインする必要があるのでは?って。
もっと言えば、室内空間全体をデザインしないとダメなんじゃ?って。
勤めていた会社に退職願いを出して、通勤途中にあったオリジナル家具を製造販売している会社の門を叩きアシスタントデザイナーとして採用してもらえたんだけど、自分自身の知識のなさに愕然としてさ、その家具屋に勤めながらインテリアコーディネーターの学校に通った。
しかしあろうことかこの学校がつぶれてしまって、事務局の方が「坂上さんは一番頑張っていたから」と、桜木町にあった建築設計事務所への就職を斡旋してくれて、この時に建築設計事務所という存在を初めて知った。
ビルやマンションは大手ゼネコン、住宅は町の大工さんが作ると思っていたから。
設計事務所に入ってからは、大学で建築を学んだ先輩達に早く追いつこうと、とにかく我武者羅に色々な本を読んで勉強していたんだけど、そこでまた驚愕の事実に出会った。
著名な建築家は建物だけではなく、部屋の内装はもちろん、家具、照明器具、食器までをもデザインしていた。
「なんだ、建築をやれば、やりかたっかもの全てデザインできるんだ!」と思うと同時に、同じ人がデザインしないと、空間の統一感は生まれないんだということに気づいた。
それは、単純にモノやカタチのデザインではなく、モノを介した空間をデザインするということ。
つまり、モノを手に取る、使う、置く、洗う、片付ける、座る、寄りかかる、寝転ぶなどといった一連の体験から得られる、心地よさとか満足感といった心理的なデザインなんだと。
とかをデザインするんだ。
あれ、これってマーケティングと同じ考えだ。